昨日のカレー、明日のパン

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イチローがチームの特別補佐になったそうだ。数年前までは40代としては考えられないほどの活躍だったが、ここ1、2年は代打での出場が多く、試合に出ないことも多くなっていた。

イチロー選手自身も「この時が来た」と語っているが、大きな決断をして、変化することを決めた。

変化することはなかなか難しく、失望や非難といった、負の感情を持たれる場合も多い。

YoutubeでMVを見ていると「曲調が変わってしまった」等の書き込みを目にする。なんだか懐かしく感じてしまった。自分も高校生くらいのときにはこのアーティストは変わってしまった、違う方向に向かっているとよく感じていた。

思えば最近はそのように感じることはあまりないように思う。

当時のように特定の人に対して熱中することなくなってしまったということもあるかもしれないが、なによりも、青春時代には変わることを恐れていたのかもしれない。

自分や、自分の身の回りの人、環境が目まぐるしく変わっていく中で、変わらずに自分の熱中できるもの、癒してくれるものを求めていたのかもしれない。

確かに変わらないものは落ち着くし、安心できる。しかし、「変わってはいけない」、「変わるはずがない」という感情にとらわれてしまってはいけない。

木皿泉さんの「昨日のカレー、明日のパン」という本の中にあった言葉だ。

この本は若くして夫に先立たれた主人公「テツコ」と夫「一樹」の父の「ギフ」が一緒に生活する中で周囲の人たちと関わり、変化していく心境を描いている。

テツコは一樹が亡くなった後、恋人ができた。しかし、恋人に対して大きな不満はないものの、結婚に踏み切れずにいる。それは、変わってしまうことへの不安や、変わってはいけないという感情の拘束からくるものだ。

変わらないもの、変わるもの。どちらかが良いというわけではない。どちらもかけがえのないものだ。

そして、変わることは難しい。しかし、そのきっかけは、一つの人形であったり、焼き立てのパンのあたたかさであったり、その時までの大きな意味を持たない、日常にあるほんの小さなものであったりする。

木皿泉さんの独特な個性に溢れ、柔らかな雰囲気で流れていくが、それぞれの登場人物たちの優しく、力強い人間性を感じることのできる物語だった。

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