夜行

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毎日残業で夜遅くにくたくたになって帰る。私の会社はおそらくホワイトな方なので、毎日常識的な時間には帰れる。そして、週1回定時退社日がある。

定時退社日の楽しみは本屋に行くことだ。本屋に行って、とりあえず一周話題作やおすすめの本が陳列されている場所に並べられた本をみる。1つの本に目がとまった。森見登美彦「夜行」だ。

 

綺麗な夜景の中に清楚な女性が立っている。仕事終わりの疲れ果てていたため、癒されそうだと思った。森見登美彦さんの本は「有頂天家族」を読んだことがあり、その安心感もあって予備知識もなく迷わず購入した。

読み進めてみると、なんだか雲行きがあやしい。これは癒されるなんてもんじゃない。ホラー小説だった。ただ、ホラー系のものは久しく読んでいなかったこともあり、何が起こるのかわからないドキドキ感を楽しむことができた。

ところでこの本、なかなか全てを理解するのはかなり難しいようだ。読み終えてようやくこの本の読み方がわかる感じだ。私自身まだ、理解できていないところも多いと思うが、こういうものは勝手な推測で楽しむのが一番いい。私なりの勝手な考察を述べる。

 

作中では、「夜行」の世界と「曙光」の世界が描かれている。おそらく夜行の世界とは、現実と過去の記憶から作られた想像の世界、そして大橋が最後に見た曙光の世界は岸田の理想の世界だろう。そして、作中に登場する女性はそれぞれの理想の人だろうか。その女性を見た全員が長谷川を思い出している。これは長谷川さんがどんなに親しくなってもどこか謎めいていて、手の届かない存在であり、理想の人の象徴であるからだ。

10年前の祭の日から、それぞれがいろんな人と出会い、その人たちとの人間関係の中で自分の思うようにいかない経験した。それでもしっかりと生きてきた。

大橋は10年前の祭の日から夜行の世界に住んでいる。現実世界で生活はしているが、長谷川のことを忘れることができず、記憶の世界から抜け出せないでいた。そして大橋は、最後に曙光の世界を見る。このとき、大橋は改めて長谷川が手の届かない存在であることを再確認する。この現実を自覚し今を生きていくことを決めたことこそが「ただ一度の朝」である「曙光」だったのではないか。

この本の内容の解釈の正解はわからない。掴めそうでつかめない。しかし、そういう難しさがこの本の魅力であろう。私自身この本のことを考え、1週間ずっとモヤモヤしている。どうやら私は完全に「夜行」の世界の住人になってしまったようだ。

 

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